388のブログ

文章を置いておく場所

女の子と、愛と記憶の交差。

女の子が手招きしながら、僕を見て笑ってる。

 

 

僕は、そんな小心者でも無いので、その女の子のする通りにした。ついていった。

 

君は僕の何を知っているんだい?

 

私はあなたの全てを知っているわ。

 

そう。じゃあ心配ないね。

 

 

それだけの会話を投げつけて、放棄した。

 

口を開いて息を出し、声帯を震わせて、口を開くという行為をしたくなかった。

 

それに、彼女は僕の全てを知っているのだから、話さなくても、分かってくれるだろう。

 

 

彼女の目先に、死体が落ちていた。

 

僕は、特に驚かなかった。

 

なぜなら、それは昨日死んだ飼い犬だったから。

 

 

昨日何度も何度も繰り返して見た、ただの肉の塊に特に情は湧かなかった。

 

ただ、あまりにも彼女が驚いて、眼球が落ちそうなほど目を見開いているのが、怖かった。

 

 

僕は、彼女を抱きしめた。

 

何も見えなくなるように、僕しか見えないように、そんなもので悲しまなくてもいいように、君だけが悪いんじゃ無くて、世界の全てに腹が立ったから、抱きしめたら、世界のせいにできるような気がしたから。

 

彼女は僕に言った。

 

 

私は、何でも知っているのよ。

あなたのことも、世界のことも、神になる方法さえ知っているわ。

 

それでも、まだここにいるの。

それは、なぜだと思う?

 

 

彼女にしては、難しい事を言い出すな、と思った。

 

 

けれど、僕は茶化さずに真剣に答えたフリをした。

あくまでも、フリだ。

 

 

愛に縋っている。過去の愛に。

君は、愛の依存をしている。

僕が昔あげたことのある、何かの愛。

 

 

そう答えたけれど、いつこんな女の子に愛をあげるようなことをしただろう、と思っていた。

僕、ロリコンじゃないし。

 

 

彼女をよく見ると、あれの名残があった。

 

 

ああ、そういうことか。

 

僕はなんとなく分かった。理解した。

 

 

 

 

君は、あの時の黒猫かい?

 

 

そうよ。あなたにやけに懐いてやったの。

あのへんてこりんな陶器に入れられていた、黒い猫よ。

 

 

私は、何でも知っているのに、自分のことは分からなかったの。

知らなかったし、知ろうともしなかったわ。

 

 

だから、まだここにいたの。

 

 

 

彼女は、いや、あの黒猫は、雌猫だったのか。

 

それだけが驚きだった。

 

 

彼女は少し自身を黒く染めて、目のふちに水を浮かべ、ゆっくり泣いた。

 

 

 

悲しいのか、嬉しいのか、悔しいのか、怖いのか、

 

 

それは僕にも、彼女にも分からないだろうし、分かりたくもない。

 

 

 

これは、僕と、黒猫のお話。

 

 

 

それから僕は、犬派です。