女の子と、愛と記憶の交差。
女の子が手招きしながら、僕を見て笑ってる。
僕は、そんな小心者でも無いので、その女の子のする通りにした。ついていった。
君は僕の何を知っているんだい?
私はあなたの全てを知っているわ。
そう。じゃあ心配ないね。
それだけの会話を投げつけて、放棄した。
口を開いて息を出し、声帯を震わせて、口を開くという行為をしたくなかった。
それに、彼女は僕の全てを知っているのだから、話さなくても、分かってくれるだろう。
彼女の目先に、死体が落ちていた。
僕は、特に驚かなかった。
なぜなら、それは昨日死んだ飼い犬だったから。
昨日何度も何度も繰り返して見た、ただの肉の塊に特に情は湧かなかった。
ただ、あまりにも彼女が驚いて、眼球が落ちそうなほど目を見開いているのが、怖かった。
僕は、彼女を抱きしめた。
何も見えなくなるように、僕しか見えないように、そんなもので悲しまなくてもいいように、君だけが悪いんじゃ無くて、世界の全てに腹が立ったから、抱きしめたら、世界のせいにできるような気がしたから。
彼女は僕に言った。
私は、何でも知っているのよ。
あなたのことも、世界のことも、神になる方法さえ知っているわ。
それでも、まだここにいるの。
それは、なぜだと思う?
彼女にしては、難しい事を言い出すな、と思った。
けれど、僕は茶化さずに真剣に答えたフリをした。
あくまでも、フリだ。
愛に縋っている。過去の愛に。
君は、愛の依存をしている。
僕が昔あげたことのある、何かの愛。
そう答えたけれど、いつこんな女の子に愛をあげるようなことをしただろう、と思っていた。
僕、ロリコンじゃないし。
彼女をよく見ると、あれの名残があった。
ああ、そういうことか。
僕はなんとなく分かった。理解した。
君は、あの時の黒猫かい?
そうよ。あなたにやけに懐いてやったの。
あのへんてこりんな陶器に入れられていた、黒い猫よ。
私は、何でも知っているのに、自分のことは分からなかったの。
知らなかったし、知ろうともしなかったわ。
だから、まだここにいたの。
彼女は、いや、あの黒猫は、雌猫だったのか。
それだけが驚きだった。
彼女は少し自身を黒く染めて、目のふちに水を浮かべ、ゆっくり泣いた。
悲しいのか、嬉しいのか、悔しいのか、怖いのか、
それは僕にも、彼女にも分からないだろうし、分かりたくもない。
これは、僕と、黒猫のお話。
それから僕は、犬派です。